西方に「にら豚」ありとヒトの言う。
その名前の通り、ニラと豚肉、さらにキャベツをジュジュッと炒めた一品で、ニラの産地、大分で半世紀前に考案されたそうな。
全国的にはあまり知られてないが、大分では超定番メニューだとか。
ふむふむ。ものは試し、にら豚試食の旅にいざ出発!まずはにら豚生誕の地、中華料理店「王府」へ参ろう。
王府と書いて「わんふ」。にら豚愛好者の間では「聖地」と言うではないか。
「名作はまず香り立つ」とは、往年のウイスキーのコマーシャル。ことほど左様に、うまいものには香りがある。朝、目覚めのコーヒーも、口に運ぶより先に、まず鼻で味わってるもの。それと同じだった、にら豚も。
お昼どき、満席の客でごった返す王府でにら豚を注文。客が多いし、ずいぶん待たされるか…と思いきや、ものの数分も経たないうちに運ばれてきた。おおっ、これがにら豚か…
まず視覚が強烈。濃緑のニラの葉が、テラテラと光沢を放つ。パブロフの犬よろしく、思わず鼻でスーッと吸い込めば、ツーンと刺激的なニラの香りが、鼻から気管を通じて胸いっぱいに。とたんに空腹感も急上昇。グーッと腹が鳴りそう。こりゃヤバイ。
ちょっとつまんで食べてみれば、口に広がる甘味とオイル感。そこにやっぱり、ニラの苦みがピリリと効いてる。葉を噛むたびに「これぞニラ!」というフレーバーがにじみ出る。この差し味が無ければ、「脂っこくてしつこいだけ」になってたかも。
いやはや参った。これだけ見事にニラを活かした料理は他にあるまいて。これに比べたら、ニラレバ炒めのニラなどクタクタになってて、まるで別もの。まあ、あれで一品としてまとまってるのかもしれんが…。これは新感覚のニラ料理。にら豚がニラレバに取って代わる日も近い…かも?
とまあ、余韻にひたっていると、店の奥から、笑みをたたえた年配の男性が現れた。糸永日左志さん。ちょうど半世紀前の1971年に王府を開いた、にら豚の考案者。
――これはこれは参りました、うわさ通りの一品ですね。
まあ、それほどでもないけどね、ふふっ。
――どこからにら豚を考えついたんですか?
店の近くに新日鉄があって、お昼どきにはそこの社員さんで大混雑してたの。
おなか空かせて行列つくってるのが気の毒で。早く料理できて、食べ応えがあるメニューが何かないかなって考えたの。酢豚とか八宝菜だと、調理に時間がかかって間に合わないから。ちょうど手元に大分特産のニラがあって、これでどうかなと思って作ってみたら、うまいうまいってみんな喜んでくれて。
――たしかにきょうも、にら豚を注文してから出てくるまで早かった。 でしょ。火力がポイントなんだよね。強火で素早く炒めるの。1分もかからないよ。
「アレンジ自由、食べ方も自由。それがにら豚」と話すのは、まるちゃん(ペンネーム)。多い時は週イチペース。あちこちのお店を食べ歩き、にら豚を愛して四半世紀。そんな生粋の大分人、まるちゃんの言う「アレンジ自由」とは?
「にら豚はどんぶりにしても、玉子とじでも、お好み焼きの具材にしてもいけます。わが家ではにら豚が残った時には、薄焼き卵で包んでオムレツにします」。たしかに王府でも「ニラチャン」(にら豚のちゃんぽん麺)を食べてる客がたくさんいたな。うどん屋では「にら豚うどん」を見かけたし。とんかつだって、かつ丼やカツカレー、カツサンドになるけれど、それにしても、この七変化ぶりは…。
月=どんぶり/火=ちゃんぽん/水=お好み焼き/木=オムレツ/金=うどん。もし「にら豚屋」を開業したら「日替わりにら豚」ができそう。
「にら豚そのものも味付け自由です。辛口の人は豆板醤を入れますし、甘口の人は砂糖やみりんを加えますよ」。大分人の間では、にら豚に「オレ流」があるようだ。大分人ではないけれど、作家の阿川佐和子さんも「ワタシ流」を紹介してる。「ご飯に載せる前、できたてニラ豚にお酢を少々と豆板醤を入れて味に深みを出すとさらに美味」(「魔女のスープ」マガジンハウス刊)。にら豚には、手を加えずにいられない魔力があるのかもしれない。
※ にら豚愛がギュッと詰まったまるちゃんのブログはこちら
https://ameblo.jp/lekka1014/
「昔は、ニラ農家が連れ立ってハワイ旅行したんですけどね」と話すのは、大分市でニラを栽培する工藤武彦さん。「あまりに儲かるんで、どうすればおカネを使えるか?って相談した結果、ハワイへ行こうという話になって」。おやおや、なんとも景気のいい話じゃが、そんなに儲かった理由は?「もつ鍋のおかげです」
食文化の変遷をまとめた畑中三応子さんの本「ファッションフード、あります。」(紀伊国屋書店刊)によると、1992年、突如、もつ鍋ブームが沸き起こった。当時、東京の銀座や渋谷にもつ鍋屋が相次いで開業し、若いOLやボディコンギャルまで詰めかけて大繁盛。人気店には一日300件もの予約電話があったとか。「もつ鍋」は日本流行語大賞の銅賞にも選ばれ、その結果、もつ鍋の具材として不可欠なニラが品薄になり、価格が6倍に高騰。そりゃハワイ旅行だって行きますなあ。
その後ブームは終息し、ニラの値段もすっかり落ち着いた。ハワイ旅行は昔話になった。ところが、「ここ数年、異変を感じる」と工藤さん。「毎年、夏に値崩れしていたんですけど、5年ほど前から、明らかに下げ幅が縮まってきた」
5年前と言えば、大分市役所がにら豚のPRキャンペーンを始めたタイミングと重なる。市はニラ農家を支援するため、2016年に「にら豚PR大作戦」を開始、マスコミやSNSで情報発信を続けている。その甲斐あって、にら豚を提供するお店は着実に増え、現在91店がPR大作戦に登録。「家庭料理としても定着してきた」と、市農政課も手ごたえを感じている。PRを通じてにら豚の人気が高まり、それでニラの価格が上向いてきたのかも。
振り返れば、もつ鍋だって相当ジミな存在じゃった。博多のごく一部のお店で、会社帰りのサラリーマンが一杯やりながら食べていた。全然オシャレではないし、「ボディコンギャル」が飛びつくようなシロモノじゃない。なのに突然、大ヒット。それなら、にら豚がブームになっても不思議じゃあるまい。果たしてにら豚ブームは来るか?
にら豚人気の広がりを確かめようと、大分を出て博多の街を徘徊。ほどなく一つの看板が目に留まった。福岡市早良区の「ひびか食堂」。2014年の開店以来、にら豚炒め定食を店の名物に掲げているとな。
「イチ押しメニューなので、にら豚を知らなくても試しに注文するんですよ。毎回にら豚を頼む常連客もいるし、アルバイトの学生もにら豚が一番おいしいって言います。普遍性のある料理でしょう」。そう語る店長、松尾美彦さんは大分県日出町出身。さしずめ「にら豚の伝道師」。
早速その定食をいただいてみると、おっ、なんだかドロッとして、見るからに王府と一味違う感じ。「片栗粉を加えてとろみを付けてます。タレがニラや豚肉に絡んで、しっかり味わえるでしょう」。自家製のタレは、シャンタンスープやにんにく、酒、みりんに豆板醤も加えた自信作。伝道師のにら豚愛を見た。
聞けば、あの福岡PayPayドームでもにら豚が食べられたらしい。ドーム内にある居酒屋「鷹正」。2018年からメニュー化したそうな。「地元九州のご当地グルメを応援したくて積極的に提供しています。にら豚もその一つ」(福岡ソフトバンクホークス株式会社の駒井康祐さん)。
にら豚を肴に、野球観戦しながらグビリって、こりゃたまらん。「にら豚は簡単に調理できておいしいので、飲食店向きですよね」。飲食店向きってのは、王府で証明済みだけど、ここでもまた証明されたわけじゃな。食堂で定食にするもよし、居酒屋で酒の肴にするもよし。でも今春、提供打ち切りになったとか?
「知らない人が多いので、結果的に選ばれないんですよね。どういう料理なのか、ウンチクも含めてもっとPRできていれば、定着したのかも。その点は心残り」
ふむふむ。打ち切りは残念じゃが、ここで提供されたのは大きな「実績」。九州にホークスファンはごまんといるから、知名度向上に効いたはず。ついに「大分限定メニュー」卒業か!?
「にら豚の細道」を最後までお読みいただき、ありがとうございました。超短時間でつくれて、万人に愛されるにら豚、ぜひご家庭でもご賞味ください。そこでお試しいただきたいのが「にら豚野菜ミックス」です。
野菜を丸ごと買った場合「食べ切れなくて捨てちゃう」こと、ありますよね? にら豚野菜ミックスにはニラとキャベツが、それぞれ2人前入っています。食べ切りサイズなので食品ロスがありません。
にら豚野菜ミックスのニラとキャベツは、下処理済み。だから洗う手間&切る手間が省けます。社内のテストでは、調理時間はわずか2分45秒。ニラとキャベツを丸ごと使った場合の44%に短縮できました。
「まだにら豚を食べたことがない」という方、味付けがよく分かりませんよね。ご安心ください、にら豚野菜ミックスには特製のタレが小袋で入っています。タレを調合してくださったのは大分の老舗調味料メーカー、ユワキヤ醤油。「普通のしょうゆだと辛すぎる。ご家庭で調整するのは面倒ですし、失敗するかもしれません。この野菜ミックスなら、にら豚専用のタレで、本場の味を確実に再現できます」(社長の門脇正幸さん)。
至れり尽くせりのにら豚野菜ミックスは、九州各県のスーパーで販売中。ぜひお試しください♪